「じゃあ、そっちの処理はお願いしていいですか?」

「うん、任せてー、ゆうにゃん!」

二人は部室にあるパソコンの前に向かい合って座わり、何かの作業をしている。

部室のドアに貼り付けてある表札を見ると「DTM」と書かれている。

ここはDTM部、簡潔に言うとコンピュータで音楽をやる部活だ。

優は小学校の頃から自分のパソコンを持っていて、それなりに扱えたのだが、先輩である杏の方は高校に入って始めたばかりの初心者だ。

杏は学校や自宅で多少はパソコンに触る機会があったものの、操作方法をほとんどわかっていなかった。しかし、DTM部に入部して以降、杏も少しはパソコンを扱えるようになっていた。

しばらくの間、二人は無言でマウスを動かし、時間が過ぎていく。

向かって左側の壁に丸時計がかかっており、五時を指した。

ちょうどその時、「うーん、これどうしようかなー」と杏が画面を見ながら唸った。

そして、「ああ、そうだ!ここをこうして、ああすればいいのかー」と独り言をつぶやく。

その後、カチカチとマウスを動かし、また無言の時間が過ぎていく。

「杏先輩、何かわからないところありました?」

自分の作業が一息付いたところで、優は杏に声をかけた。

「大丈夫だよー」

杏は笑顔でそう答えた。

しかし、優は立ち上がって杏の背後に周り「ちょっと見せてください」と言って画面を覗き込む。

「これでいいんだよね?」

杏は画面のボタンを幾つか押してパラメーターのようなものを表示させた。

優は表示された複雑な画面を見ながら少し思案した後、「えっと...あー、これをここに使ったんですね」と言った。

「うん、そうだよー」

杏はのんびりそう答えた。

「うーん、ちょっと思ってたのと違うんですけど...でも、すごいですね、杏先輩」

優はそう言い、杏を褒めた。

杏は高校になって初めてDTMを触りだした初心者だったし、楽譜も読めなかった。だが、杏の上達速度と意外性はピカイチで、いつも常識から少し外れたやり方で直感的に曲作りに取り組んでいるように見えた。

反対に、優は基本的なことができるし、楽譜も音楽理論も読める。しかし、杏の意外なやり方にはいつも驚かされることばかりだった。

「杏先輩と作曲してると、子供に教えてるようで面白いです」

自分の机に戻りながら、優はそう言った。

「えー、それ、褒めてるの、ゆうにゃん?」

杏は嬉しそうな表情で返事をする。

そんな感じで今日の部活も終わっていく。

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