「......」

いつもなら話し声でいっぱいの部室が何故か今日はまるでお通夜に入り込んだような雰囲気だった。

一切、全く、誰もしゃべらない。

「あのー、杏先輩何かあったんですか?」

優は平和的ではない部室の雰囲気に堪えきれず、杏に質問してみた。

「ん、大丈夫、大丈夫...」

杏が真顔でそう言ったが、いつもニコニコしている杏なので余計に不安だ。いや、むしろ全然大丈夫じゃないだろ!と誰もがそう思うような状態だった。

優もこれ以上追求しないほうがいいと考え、何も聞かないことにした。

再びの沈黙が続いた後、ややあって「今日はちょっと具合が良くないので、もう帰るね」と杏が言った。

「え、あ、はい。本当に大丈夫ですか、杏先輩?」

杏からの返事はなく、杏は部室のドアを開け、廊下に出ていった。

優は作業に集中しようとしたが、その日は集中することができず、早々に諦めて帰ることにした。

優が帰る準備をして椅子から立ち上がると、ふと杏の机にペンケースが置いてあることに気がついた。

「あれ、杏先輩、忘れ物かな」

優がつぶやいた。

そういえば、杏先輩、今日は珍しく元気なかったもんね。

「そうだ。忘れ物を届けるついでに杏先輩を元気づけることってできないかな」

優はペンケースを手にとって、それをカバンの中に入れた。

30分後、優は杏の自宅の前に来ていた。

「ピンポーン」

呼び鈴を鳴らす優。

しばらくして杏が扉を開けた。

「あれ、ゆうにゃん、どうしたの?」

私服の杏は少し驚いた表情で優を見ながら聞いた。

「先輩のペンケース、部室に忘れたみたいだったので持ってきました」

優はそう言ってカバンの中身をゴソゴソやり、杏のペンケースを渡した。

「ありがとう!」

杏は嬉しそうにお礼を言った。

「...あと、今日、杏先輩、元気ないみたいでしたから、大丈夫かなって思って」

「あー、そうなんだよー。実はお気に入りの消しゴムを失くしちゃって落ち込んでたんだよー」

杏がケロリとしてそう言った。

「ええっ、け、消しゴムですか?」

優は驚いた。まじか。あの明るくて元気な杏先輩がまさか消しゴムごときにやられるとは。

「うん、そうなんだよー」

返答する杏。

「もう大丈夫なんですか?」

「うーん?わかんない」

まだ駄目な可能性があるのか。

「でも、心配しましたよ、杏先輩」

優がそういった瞬間、杏は「あれ大切にしてたやつだったんだよー」と優に抱きついて悲しそうな声を出した。

優は少し戸惑ったが、杏が落ち込んでいるので、放ってはおけない、ここは自分が一肌脱がなくてはと意気込んで、精一杯、杏を慰めることにした。

「杏先輩は、いつもいつもかわいくて、愛くるしくて、やさしいから、きっとすぐに見つかりますよ」

そう言って、杏の頭をナデナデ。すると、杏はぴょこんと顔を上げて、ニコっと笑った。そして、頬をスリスリして甘えてきた。

えっ、か、かわいい!!

まさか、杏先輩がこんなに自分に甘えてくる日が来るなんて。

「大丈夫ですよ、私も探しますから」

それからというもの杏と優の関係が変化した感じになった。

後日談だが、実は杏に届けたペンケースの中に探してた消しゴムはあった。奥に引っかかってたみたいだ。ちなみに、杏がその消しゴムを気に入ってる理由はいい匂いがするからで、そういえば、杏先輩はよくその消しゴムの匂いを嗅いでたなーと優は思ったのだった。

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