「私、猫、大好きなんです!!」

「そ、そうなんだー」

なんで二回言うの?と思った杏だったが、優がネコ好きなのは素直に喜ばしいことだったので、特に何も言わなかった。

「にゃーん」

猫が優の足にすり寄って甘えた。

「人懐っこいですねー、かわいい猫さんです!」

優は、その場に座って猫に触った。

「あ、その子は、ぽこって言うの」

杏は、優しそうにそう言った。

「ねこさん、ねこさん」

しかし、優は、杏の言葉が聞こえなかったようかのに、ぽこの方だけ見てそうつぶやく。とても嬉しそうだ。

「ゆうにゃんって猫好きなんだねー」

ぽこって言ってるのに。しかし、杏は、あまり気にせず続けた。

しばらく優は、ずっとぽこにかかりきりで、例えば、猫の手やしっぽをじっと見たり、猫の一挙一動に歓声を上げたりした。「わー、猫さんが手をペロペロしました、しましたよ!」

反対に、優にかまってもらえない杏は、優の気を引こうと色々と試みた。

「ゆうにゃん、お菓子でも食べようよー」

しかし、優は相変わらず、猫のぽこにしか興味が無いようだ。杏の言葉は度々、残酷に無視された。ひどいよー!

「ねこさんと、ずっと一緒にいたいです」

優がぽこの方を向いてそう言った。

するとぽこの飼い主である杏は異議を唱える。

「あのね、あのね、ゆうにゃん、ぽこちゃんって結構、大変なんだよー」と杏は言った。

しかし、優は全く聞かなかったように「猫さんは、なんでこんな優しくて、可愛らしいんでしょうか」と言うだけだった。お前はなにもわかってない。

しかし、杏は「本当にゆうにゃんは、猫好きなんだねー」と笑顔を見せただけだった。しばらくの間、杏は、優と会話しようと頑張ったし、自分が猫の真似をしてもみたが、効果は全くなかった。

ゆうにゃん、そんなに、そんなに、今日会ったばかりのぽこちゃんが好きなの?

そして、ぽこが優の顔をペロペロして優が喜んでいるのを見ると、杏は、思いの外ショックを受けてしまい、毛布をかぶって出てこなくなった。

優は、帰る時間になるまで杏がいなくなったことに気付かなかった。辺りが暗くなり、そろそろ帰らなければいけない時間になってやっと杏がいなくなってることに気づくのだった。

優は、不思議そうに少しキョロキョロしたあと、布団が大きく膨らんでいることに気づいた。

「あれ、杏先輩?寝てるんですか?」

優は、丸まった布団に向かって声をかけた。

「今、寝てるんだもん」

杏の返事があった。やはり布団の中に潜り込んでいるらしい。優は、杏先輩どうしたんだろうと思ったが、今はそっとしておくことにした。

「...そうですか、それじゃあ、私、そろそろ帰りますね。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」

優は、荷物を持って服を整え立ち上がった。

「......」

杏からの返事はなかった。代わりにぽこが「にゃーん」と寂しそうな声を出して見送った。

優はドアを開けて出ていった。

それから、優がいなくなった部屋にぴょこりと布団から顔を出した杏は、しばらく動かなかったが、やがてバッと毛布から出て階段を駆け下りた。

「ゆうにゃん、待ってー」

「あれ、杏先輩、何かありました?」

玄関で靴を履いたまま振り返って優はそう答えた。優は杏に向かい合った。玄関の段差のためか、いつもと違い、ちょうど同じ目線になっている。

杏はもじもじしたまま何か言いたそうな仕草を見せた。

すると、優は「そう言えば言い忘れてたことがありました」と言って、少しだけ前のめりになった。顔が近い。

そして、「私、あの夜、杏先輩になら何されてもいいって、そう思ってたんです。それだけ伝えておきたくて」と優はそう言った。

「え、あ...」

杏が何も言えないでいると、優は、恥ずかしそうな様子で「じゃあ、...失礼します」と小さな声でそう言い、玄関から出ていった。

そして、玄関のドアが閉められる。

「そうなんだ...なんか嬉しいね」

杏は、いつの間にか隣に来ていたぽこを抱きしめ、笑顔でそうつぶやくのだった。

おしまい★

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