「もうすぐ中間テストがあるね、ゆうにゃん」

「はい、そうですね」

「そうだ、一緒にテスト勉強しようよ」

杏は、ニコニコとした笑顔でそう言った。

優は珍しいこともあるものだと思いながら「いいですよ」と手短に答えた。

「そういえば、杏先輩はテスト勉強進んでます?」

「えっ?今からやろうと思ってるんだけど」

杏は、なんでもないようにそう答える。

「大丈夫ですか。もう1週間もありませんよ」と優は、心配そうな声を出した。

しかし、杏は、「うーん、わかんない」とのんびりそう答えるだけだった。

「私は日頃から勉強しているので、多分、大丈夫だと思うんですが、一緒に勉強するにしても、いつもと同じことをやるだけですね」

そう言って優は、自分の勉強態度について説明する。

......

あれから1週間、テスト期間も無事に終了していた。

一緒にテスト勉強した日、杏は、退屈そうに赤色の表紙をした問題集を眺めていただけのように見えた。

教科書もノートもほとんど見ないし、ノートに何かを書き込む様子もない。ただただ寝転びながら問題集を見つめているだけだった。一方、優は、教科書を見ながら、ノートにポイントをたくさん書き込んだ。

しかし、その後、優は、杏のテストの結果を見て驚いた。杏の点数は割と普通で、というか、結構良くて、全科目が80点以上だった。実は、あまり良い点は採れないだろうとそう予想していたのだ。

「え、杏先輩、すごくないですか?」

返却されたテスト用紙を見せ合っている時、優が驚いた。

「えへへ。でも、ゆうにゃんもすごいねー」

杏は、嬉しそうに言った。点数よりもむしろテストが終わったことのほうが嬉しそうだった。

優は、二人で勉強をしたあの日、二人の勉強法がまるで違うということに気づいた。

「いや、私は、毎日やってますし、普通ですよ」

優は、毎日、3時間から5時間も勉強していたが、テスト直前は10時間やった日もあった。結果は平均80点くらいで、学年順位は真ん中よりちょっと上という感じだった。

杏先輩の勉強法はもしかしたら効率がよいのかもしれない、優はそう思った。勉強法マニアの優としては、見過ごせない。

優は、「あの、杏先輩、今日も一緒に勉強しませんか?」と再び勉強会を開くことを提案した。

しかし、「えー、でも、もうやることないよー」と杏は、あまり乗り気ではないようだ。しかも、「せっかくテスト終わったばかりなのに」と小声で付け加えるあたり、かなり嫌々そうだった。

「私、杏先輩のこともっと知りたいです。私の家で色々と教えてください!」

優は、嫌がっている様子の杏を強引に誘うことにした。

すると、杏は、「もちろん、OKです!」と胸を張りながらすぐに方向転換するのだった。

......

数時間後、杏は、優のマンションの前に来ていた。

上を見上げると10階くらいあるだろうか。杏は、階段を登り、マンションの中に入って行った。

区切られた空間にいた杏は、次の場所に進むためのドアがロックされていることに気づいた。大理石の上には電話機っぽいものが置かれていて、数字が並んでいる。

「こ、これはどうやるのかな。あの電話っぽいものかければいいのかな。えっと、ゆうにゃんの部屋番号は...」

杏は、ポケットに手を突っ込んでゴソゴソと折り畳まれた紙を取り出した。そこには、優の住所が書かれている。

「あ、杏先輩、来てたんですねー」

内側のドアが開いて、優がこっちにやってきた。

「もしかしたら開け方がわからないかもって思って」

「あっ、ゆうにゃん!うん、よくわからなくて...」

杏は優に会えたので、嬉しそうだった。

「この機械で部屋番号を入力すると話せるので、ロックを解除できるんですよ」と優は手短に説明した。

杏と優は、一緒に奥に進むと、一番奥にエレベーターのドアが見えた。

二人でそのエレベーターに乗り込むと、優はすぐに4のボタンを押す。

「ズウウウウ...ン」

しばらくしてエレベーターのドアが開くと、そこは地上よりも遥かに高い場所のように感じた。強い風が吹付け、塀の上は青空が広がっている。

優一家が住んでいるのは403号室だった。

優がドアを開けると部屋のライトがぱっと付いて、真ん前に広がるリビングがチラリと見えた。

しかし、リビングをゆっくり見学する間もなく、入ってすぐの右側にある小部屋に通された。

どうやらここがゆうにゃんの部屋らしい。部屋全体の色合いを見るとそういう印象だった。

「結構、散らばってるね」

杏は、のんびりと正直な感想を述べた。それを言うなら、散らかってるだ。

「うっ、テスト期間だったので片付ける暇がなかったんですよ」

優は、言い訳っぽくそう言った。

教科書や漫画が床に散らばり、ギターが1つ隅の方に置いてあるのが見える。

学習机の上は、物でいっぱいで教科書を広げる隙間もなかった。そこにあった幾つかの本を持ち上げると、優は、「さあ、早速、勉強を始めましょうか」と言うのだった。

「えー、勉強、嫌だよー」と杏がそう言う。

それを聞かなかったかのように、優は、「そう言えば、杏先輩はいつもどんな感じで勉強してるんですか?」と尋ねた。

「んーっと、まあ、普通な感じで」

杏の回答ははっきりしなかった。

すると、今度は「じゃあ、ゆうにゃんは、いつもどうしてるの?」と杏が優に尋ねる。

「私は...私こそ普通ですよ。授業をちゃんと聞いて、ノートを取って、教科書を読みます」

優は、そう言った。

すると、杏は、「うーん、私のやり方とはぜんぜん違うんだねー。でも、人それぞれ自分に合ったやり方があるよね」と呑気にそう答える。

その後も優が杏の勉強法を聞いていると、杏先輩の勉強法は単に「問題を繰り返し解いているだけ」という感じだった。

「えっと、それ、誰かから教えてもらったりとかしたんですか?」

優は、不思議そうに質問した。

「えー、しないよー」

杏は、少し不思議そうな表情でそう言うと、「ゆうにゃんは、自分の勉強法誰かから教えてもらったりしたの?」と聞いた。

「私は、そうですね。色々ありますが、一番は、やっぱり、漫画の影響がすごく大きいんじゃないかなって思います。最近、学校の勉強を必死で頑張る漫画が人気じゃないですか。あれとかも、毎日、真面目にノートをとって教科書を読み込めば成績は上がるんだってそう思います!」

優は、自分が読んでいるオススメの漫画勉強法について力説した。目が怖い!

「ふ、ふーん。そうなんだー」

杏は、よくわからなかったけど、一応は同意することにした。

「で、その漫画なんかは、全然勉強できなかった子たちが、時間をかけて努力して、次第に勉強ができるようになっていくんですよ。それに、教師役をしている子がいるんですが、その子は、いつも100点で、成績もすごいんですが、教えるのもすごくてですねー、でも、やっぱり、教える人がすごくないと勉強は難しいんでしょうか。しかし...」

優は、杏の同意ではない何かを得て、話が弾み、勉強法の講義が始まった。

その後のことを杏はあまりよく覚えていない。優の講義を聞いていると、なんだかすごく眠たくなってしまったのだ。

しばらく、優はずっと喋り続けていたが、最終的には、「...それで、一応ですね、杏先輩がやっているように、問題集みたいなものも試してみようかなと思ってるんですよね。なので、今から本屋まで一緒に付き合ってもらえると助かります。どういうのがいいのかわからなくて」というところで落ち着いたみたいだ。

「う、うーん?」

杏は、ぼんやりした表情で変な声を出した。

「助かります。じゃあ、早速、今から行きましょう!」

優は、そう言って、マンションから杏を連れ出して、近くの書店に向かうのだった。

......

「いっぱいありますねー」

書店に到着して、一番奥にある資格試験全般の本棚を眺めながら、優が言った。

「そうだねー。でも学校のはそっちじゃないよー」

杏は、目をこすりながら、向かい側にある本棚を見てそう言った。

「あ、これ杏先輩が持ってるやつじゃないですか?宅建、んーっと、宅地建物取引士っていうやつ」

優が杏の方を見ずにそう言うと、杏は、「え、なんで知ってるの?」と振り向きながら聞いた。

すると、優は、整然とした様子で「だって、この前、杏先輩の家に遊びに行った時、机になんかカードが何枚か置いてあったじゃないですか。そこに書いてありましたよ」と返事をする。そして、「杏先輩って、資格とかも持ってたんですね、意外です」と続けた。

「他には何か持ってるんですか?」

優が興味本位で聞いた。

「他は、えーっと、危険物取扱者乙4って言うやつかなあ。懐かしいよー」

杏は、優の隣に並んで本棚を見ながらそう言った。

「それ難しいんですか、その危険物なんとかっていうやつ?」

杏は、「うーん、問題を何回か解いてればわかってくると思うよー」と言い、「あー、たまにすこーしだけ教科書も見るんだよね、うんうん」と付け足した。

「それにしても変わった名前の資格ですね、役に立つんですか?」

優は、へんてこな名前のよくわからない資格が本当に役立つものなのか疑問に思った。

「んー、どうだろう。でも、いいと思うんだけどなー、S級資格」

杏は、思いつきで最後の言葉を付け足した。

「S級資格ってなんですか?」

優は、不思議そうに尋ねた。

「えっと、特に意味はないけど、いいと思う資格のことだよ!」

杏は、そう答えた。

S級はでまかせだったのか。相変わらず頼りにならない先輩だなあと優はそう思った。

「危険物のやつは、ガソリンスタンドのバイトとかで役に立ちそうだし」と杏は続けた。

「ガソリンスタンドですか?」

優が聞いた。

「うん、そうだよー」

杏は、ふにゃっとした顔でそう言う。

「なんか、怖そうな感じですよね。危険物って名前自体もそうですし」

しかし、杏が言うには、例えば、セルフのガソリンスタンドは危険物取扱者の資格を持った人がいないと一般人は使うことができないらしい。監視カメラで資格を持った人が見ているからこそ給油できるということのようだった。そういうところで役に立つ可能性があるらしいという資格のようだ。

その後、話は変わり、学校で役立つ問題集の話になった。

「あ、これ、この赤いやつ杏先輩がテストの時見てたやつじゃないですか。えっと、え、東東大学過去問題集、先輩、大学入試の過去問やってたんですか?」

優が表紙を見つめながら、驚いてそう言った。

杏は「そうだねー」とのんびり答えた。

またまた杏が言うには、どうせ勉強するなら楽をしたいということで、日頃は大学の過去問を見ているということのようだった。なんとなくこういうのが出るんだなーというのが把握できるのでいいらしい。また、わからなくてもとりあえず進んで繰り返し解いていると誰にでもできるようになるんじゃないかなーというようなことも言っていた。現に、杏は東東大学の過去問をほぼ100%の正答率で解答できるみたいだ。まあ、単に答えを丸暗記しているだけなのかもしれないけれど...。

「私はどちらかというと、学校のテストに使えるやつがいいですね」

そう言って、優は、自分が買いたい本の要望を杏に伝えた。

すると、杏は、「うん、それなら公式のやつがいいと思うよー」とニコニコしながら返事をした。

優は、公式ってなんだろうと思いながらも、杏がこっちこっちと言って手を引っ張っていった本棚には、いかにも公式っぽくて分厚い本が幾つか置いてあった。なんとなく黄色い表紙のものが多かった。

「これですか?」

優は、ちょっと驚いたように聞いた。

「うん」

杏は、屈託なくそう答える。

「なんか予想してたのと違いますね。杏先輩なら"これだけやれば大丈夫、たった5日でできる"みたいなのを選ぶと思ってたので」と優が言った。

すると、杏は、「ここは日本ですからねー」と返事をしたのだった。

相変わらず、よくわからないことを言う杏先輩なのであった。

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